薬草の旅 vol.5|アイヌ民族が愛用するナギナタコウジュ

2021.10.31

ナギナタコウジュ

「アイヌの女性から分けていただいたの」。

そう言って、札幌に住む友人が、薬草を見せてくれました。それは、旭川のアイヌの方からもお話を聞いていたナギナタコウジュ。瓶を空けた瞬間、芳香が立ちます。

なんて華やかな、あまい香り。

数百種類にのぼるアイヌ民族が使うハーブの中から、今回はナギナタコウジュをご紹介します。

【薙刀香需/Elsholtzia cilliata】

薙刀(なぎなた)は、シソ科ナギナタコウジュ属の一年草。

東アジアの温帯に分布する、香り高い植物です。山の裾や、山の道端にも生えていて、北海道から九州まで見かけることができます。地域にもよりますが、9~10月頃に花が咲く一年草。茎も葉も香りがありますが、ツボミがつく頃に刈るのがおすすめです。

精油を含み、ラベンターと同じくらいの強い香りがします。アイヌ民族は薙刀を「エント」と呼び、地上部を摘んで乾燥させ、煮出してお茶を作っていました。香りが強いので、煮出してから一度冷やして飲む方が良いとも言われています。

ナギナタコウジュのお茶

人間にとっては心地よい香りですが、アイヌの人々は、病魔や邪気などはナギナタコウジュの匂いを嫌うと考えていました。そのため、ナギナタコウジュを常用して、健康を保とうとしていたようです。風邪をひいたらお茶にしたり、お粥に入れて香りの良い料理を楽しんだりしたと言います。さらに二日酔いの時には、ナギナタコウジュの種をお粥に入れ、薬代わりに食べていました。

一般的にも解熱、発汗、利尿作用があるので、風邪やむくみ、腹痛に用います。夏の冷え(冷たいものの飲み過ぎやクーラーなど)から来るお腹の冷えを優しくケアしてくれるのです。

しっかりした香りがあるので、薙刀香需茶は、濃く淹れるとマウスウォッシュにもなります。ガーゼに包んでお風呂に入れたり、ポプリを作ったりして香りを楽しむのも良いですね。

麻のお茶っぱ袋

アイヌの暮らしには、自然の美しさ、豊かさが息づいています。

本州や九州、四国でもナギナタコウジュは自生しているので、秋の野山のお散歩で紫色のお花を見付けたら、それがナギナタコウジュ。体調に合わせた薬草の使い方を、ぜひ試してみてください。

瓶に詰めたナギナタコウジュ

次回の薬草の旅は、身近な薬草たちにスポットをあてます。
どうぞお楽しみに!

TABEL株式会社 代表取締役 新田理恵(食卓研究家)

新田 理恵 (Lyie Nitta)
TABEL株式会社の代表/薬草使。
管理栄養士であり、国際中医薬膳調理師。東洋と西洋、現代と伝統の両面から食を提案する。日本各地のローカルや海外の伝統ハーブの使い方をめぐり、伝統茶{tabel}(タベル)を立ち上げる。
薬草大学NORMや、オンラインコミュニティの薬草のある暮らしラボなども手掛ける。著書に「薬草のちから(晶文社)」がある。