薬草の旅 vol.2|石垣島と月桃
2021.09.22
こんにちは!伝統茶{tabel}の新田理恵です◎
日本は本当に広い。
石垣島に到着し、その文化や気候の違いに驚きを隠せません。沖縄本島よりも、もはや台湾の方が近い位置にある石垣島。少子化が進む日本の中でも石垣島は、出生率2以上を誇る数少ない場所でもあります。
亜熱帯という気候が、もはや 本州とは全く違う植生をもたらし、見たこともないような草木や果実が、のびのびと、時には驚くほどの勢いで育っています。ビワや桑などのメジャーな薬草でも、「イヌビワ」「島桑」といった特有の種族になります。
今回は、石垣空港から車で30分。おもと山にある薬草畑を訪れる旅にご案内しましょう。(この旅は、2014年に訪れています。)
こちらの薬草園では、沖縄在住の農家さんが「沖縄らしい薬草を育てよう」と、島中を巡り、薬草の本を見ながら研究して開いたハーブ園です。ウコンを中心に栽培し、様々な種類の植物のお茶を製造販売しています。島内のショップでも、人気商品になっています。
先代が病に臥したことがきっかけで、息子さんが跡を継ぐ決心をしました。三反(約3000平方メートル)もの畑を耕し、春ウコンと秋ウコン、そして月桃(げっとう)などの沖縄らしい植物を、ハーブとして育てています。
採れたてのウコン
石垣島の気候は、非常にパワフル。5月の段階でもかなり強い日差しと暑さは、時には 野良仕事をするには過酷な状況にもなってしまいますが、日当りが関係して同じ植物でも本州と比べて沖縄の方が薬効成分が強い……というケースもあります。
過酷な環境ほど、植物も負けじと強い力を秘めて育っていくようです。
長命草に琉球松、島こしょう、モリンガ、マンジェリコン……石垣島は薬草の宝庫です。
沖縄では食べ物のことを「くすいむん(薬物)」と呼び、医食同源の意識が非常に強い。そして最近では薬草のことを「ぬちぐさ(命草)」と名付けて、ハーブフェスタなどの誘致を行い、市を挙げて新たな産業の一つとして取り組んでいます。
沖縄独特の薬草•イヌビワ
かつて、沖縄の小さな島には医師が常駐できませんでしたが、その代わり、稀に訪れた医者は時に医療の智慧を島民に授けたそうです。こうして、沖縄の中で民間医療が発達していきました。
そんな環境で育まれた、生きる力の強さと、穏やかな人柄。大きな空と海にゆったりと抱かれるような感覚で、この島を愛おしいと思う気持ちが日に日に芽生えてきます。
ラッキーなことに、ちょうど訪れた日は「ムーチー(鬼餅)の日」で、スーパーなどでもお餅がたくさん売られていたので、月桃に包まれた良い香りのお餅を食べました。
ムーチーの日は、旧暦の12月8日。今の暦だと1月中旬になります。
(沖縄では、旧暦をよく使います。終戦記念日が6月だったりと、本州とは違ったカレンダーが動いているのも興味深いところです。)
ヒヌカン(火の神)とお仏壇にお餅を供えて、家族の健康祈願をする日とのこと。水に浸した米粉を月桃(沖縄弁でサンニン)の葉で包んで蒸します。ほんのり甘い(๑´ڡ`๑)紅芋などが入って紫や黄色などのきれいなお餅です。
ムーチー(鬼餅)はもともとは「ヤナカジ・シタナカジ」と呼ばれる、悪霊や悪疫を払う、お家のための御願行事だそうですが、現在では特に子どもたちの健康祈願をされているのだとか。
沖縄では昔から、「香りの強いものは邪気を払う」と信じられてきました。
月桃も、精油がとれるほど香りが良いですからね◎
殺菌効果もあるので、本当に邪気払いの効果もあるかと思います。
月桃の葉
こうして出会った月桃は、私達の{tabel}のお茶の中でも特に女性に根強い人気のお茶になりました。
あの熱い太陽の恵みをたっぷり受けた月桃。
コトコト長く煮出すと、ピンク色のきれいな芳しいお茶になります。
次回は、郷土菓子にも、食材以外でも至るところでよく使われる、“月桃”のお話をさらにご紹介しますね。
どうぞ、お楽しみに!
※こちらの記事は2014年のリサーチをリライトしています。
新田 理恵 (Lyie Nitta)
TABEL株式会社の代表/薬草使。管理栄養士であり、国際中医薬膳調理師。東洋と西洋、現代と伝統の両面から食を提案する。日本各地のローカルや海外の伝統ハーブの使い方をめぐり、伝統茶{tabel}(タベル)を立ち上げる。薬草大学NORMや、オンラインコミュニティの薬草のある暮らしラボなども手掛ける。著書に「薬草のちから(晶文社)」がある。