秋田の薬草とくすりの物語 〜秋田県立博物館〜

2016.06.23

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秋田の深い山々。
マタギの文化もそうであるように、大地の恵みを活かし、生かされてきた歴史があります。
もちろん、そこには薬草も…。

2014年に秋田県立博物館で開催された「秋田のくすり今昔物語」という企画展がとても素晴らしいと噂を聞いてご連絡をしたところ、直接お話を伺うことができました。

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【秋田のくすり今昔物語 展】

薬は医者や学者など、限られた人しか手に付けていない分野でした。
しかし、文化伝承の危機を迎えている現在、過渡期を迎えています。

通常の博物館の展示は、しっかりとリサーチと考察が成された後に発表となりますが、薬草文化は今、刻一刻と失われています。
「なんとか今、つなぎ止めたい」と、まだリサーチを始めたばかりの段階で展示をすることに。
「一人のキュリエーターが作る展示ではなく、県民みんなで作る展示にしたかった。」
展示を通して出会ったり、関心を持ってくださる方々とこれからリサーチを深めて行きたいとの想いは実り、実際に会期中に訪れた人から薬草の情報が入ってくるようになったそうです。

この展示は市町村を手がかりに調べ、村の達人やマタギと山を巡り、聞き取りや採集を通してデータを集め、秋田藩の薬の資料と照らし合わせたりしながら編集されました。

ツムラなどの企業とも連携し、期間中は薬草の配合などの体験型ワークショップも開催されて五感を使って薬を知ることができました。
山の匂いまで感じられそうな、今、ここにある薬草。
この展示の評判は各地へ伝わり、岐阜などへの巡回展も行われています。

【くすりと歴史について】

江戸時代後半から手作りの民間薬が作られていました。
村の医療はどうしていたかというと、文字が読み書きできる村長が村医を兼ねていたようです。
明治に入ると西洋医学が旺盛になり、漢方医はその地位を剥奪されるのですが、村民からの信頼は依然として厚く、ひっそりと隠れ医者、藪医者として民の健康を引き続き支えていました。

その頃、阿仁マタギなどの山に知恵を持つ物たちが売薬をしていました。
彼らは動植物から生薬(薬の材料)を作りながら、各地に薬の行商にでかけたのです。
各家庭に届けられた置き薬は、紙袋に入れて保存されておりました。
袋の裏には薬の一覧が載っています。

置き薬を入れた袋
(各家庭で置き薬を入れて保管していた袋)

その後、産業革命が日本にも影響を及ぼし、機械による製造が入ってくる頃から手作りの薬の製造を辞めた所も多いといいます。
そんな中、作り続けると決めた県内の小中規模の作り手が共同組合を成し、秋田県製薬株式会社を設立。
輸入した生薬をブレンドして製薬を続けていましたが、戦後に事実上解散してしまいました。

マタギによる売薬は昭和50年代まで 続きましたが、医薬品に関する法的規制はどんどん厳しくなっており、難しい状況が続いています。

そんな中、三種町などでは薬草の栽培が行なわれはじめたり、薬に関わる産業は時代とともに柔軟に変容しているようです。

【寺社とくすり】
唐松神社(ご祭神は物部氏)にお参りすると子宝に恵まれると伝えられ、女性の一生を守ってくださる神社です。
明治期までは薬も販売いたようです。
今の宮司さんが若い時には薬研がごろごろ転がっていましたが、やはり昭和20年以前の人に聞かないと若い宮司さんたちは神社が作っていた薬についてはわからないのが現状です。
しかし他の神社にも文書が残っている可能性はあり、今後のリサーチの余地でもあります。

お寺に関しては敷地内にイチョウやビワなどを植えている所が多く見られますが、それは近くの薬局に薬を作らせていた名残だそうです。

【龍角散】
秋田で一番有名な民間薬といえば、龍角散。
大曲で生まれました。

元々は江戸中期に秋田藩主の家伝薬として作られていたものがルーツになっています。
江戸で蘭学を学んだ2代目の藤井玄信が、西洋医学と和漢方と融合した薬を作ります。
その時に「龍角散」と命名され、製法も確立されました。
4代目の得三郎が経営に長けたようで、分業することにより自らは営業に徹して広めていきました。
現在は、株式会社龍角散として東京に本社を構えていますが、大曲に藤井薬局が残っています。

【薬草の標本】
約80種類にも及ぶ展示に使われた乾燥した薬草は、山の達人の協力により非常に立派な大きさのものが集まりました。
ドクダミやヨモギなどの身近なものからツチアケビなどの絶滅危惧種に指定されているものまであります。
美しい緑色が残るようにと、短時間で乾燥されています。

たくさんある秋田の生薬の中から4つ、特徴的なものを挙げてみましょう。

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熊胆(ゆうたん)…
阿仁マタギがしとめた熊から取り出した胆臓を乾燥させたもの。
苦味のある、貴重な健胃薬。

センブリ…
熊胆が非常に希少なもののため、効能が似ているセンブリが重宝されました。
同じく健胃薬で、熊胆と混ぜて使ったりもします。
地元の人からは「センブリ山」と呼ばれる山も実在しており、センブリを採集しては薬局に売って文房具などを買った人もいます。現在は宅地開発もされていますが、開かれた土地でもセンブリがまだまだ根強く生えて来るそうです。

ツチアケビ…
レッドデータブックに載っているほど貴重な腐生植物。日本最大のラン。
煎じて飲めば婦人薬。母乳の出が良くなると言われています。
当時も非常に高価なものだったので、ある程度裕福なお家の妊婦さんは生の実を食べており、
その記憶を懐かしむおばあちゃんも居るそうです。

ツチアケビ

きささげ(豆)…
武家屋敷には薬草、薬木がよく植えられているのですが、角館の武家屋敷に生えています。
角館の人々は「薬といえばきささげ」というくらい馴染みの深い薬草です。

【秋田のくすり、いろいろ】
かわいいパッケージの民間薬をたくさん見せていただきました。
その中でも、3つ風変わりなものがあったのでご紹介します。

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カッパが作り方を教えてくれたという伝説を持つ薬が、秋田には2つあります。
めまいや立ちくらみ、骨折、傷に良いとされる「根田薬」と、
金創や打ち身に効くとされる「川口の薬 消炎散」です。
300年前からの伝承ですが。カッパは一体、何者だったのでしょうか。

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そしてなんと、馬牛用の薬もあります。
戦時中に馬を政府へ出さないといけない状況で、馬や牛が出せないと他の物を出す必要が出て来てしまうため、人々は家畜の健康にとても気をつけていたそうです。

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秋田にはまだまだ明るみに出ていない薬や薬草の文化が眠っています。
秋田県立博物館の常設展でも、薬箪笥や製薬会社の看板などを見ることができますし、ミュージアムショップでは古本コーナーが充実していて貴重な本などもありました。

ぜひ、遊びに行ってみてくださいね。きっと秋田の面白さが倍増します。
そして「秋田のくすり今昔物語」が、また新たな展開を迎える日がとても楽しみです。

秋田県立博物館 http://www.akihaku.jp/
〒010-0124 秋田県秋田市金足鳰崎字後山52
9:30〜16:30 (4〜10月)
9:30〜16:00 (11〜3月)
毎週月曜日、年末年始、燻蒸消毒期間(9/1〜8)は休館。

秋田 薬草