【Interview】北海道•名寄 最先端の栽培技術で紡ぐ、農と医療の未来  〜国立研究開発法人 医薬基盤•健康•栄養研究所 薬用植物資源研究センター 〜

2015.09.24

健康であることは、生物の永遠の課題です。
人々の健康は、社会の健康、そして国の健康にもつながっていきます。

日本には4カ所の国立薬用植物資源研究センターがあり、 薬の元となる良質な薬用植物を育てる技術が日夜磨かれています。

今回は、旭川より約80km北に向かった名寄にある、国立研究開発法人 医薬基盤•健康•栄養研究所 薬用植物資源研究センター 北海道研究部にて、今回は特別に先生からお話を伺いました。

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“大黄の花”
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こんにちは!
緑鮮やかな薬園が広がる、とても大きな研究所ですね。
こちらではどういったお仕事をされてるのですか?

—薬用植物に関する知識を収集・保存して、必要な時に利用できるように…
そして、それを後世に伝えていくことが我々の責務です。

この研究所の前身は、1964年に開設された国立衛生試験所 北海道薬用植物栽培試験場でした。
現在は薬用植物資源研究センターに名称も変わり、厚生労働省の管轄下で運営されています。

主に3つの目的があり、
①寒冷地に生育する薬用植物の収集と保存
②薬用資源植物の栽培と改良に関する研究
③栽培指導、種苗提供、教育•普及活動
…などを目指して活動しています。

現在、センター内には、研究たんぼ、標本園•樹木園(約500種類)、アイヌ民族の有用植物コーナー(約120種類)で栽培しています。研究、実験、資料の保存などができる設備も併設されていますよ。

—なぜ、北海道の名寄に建てられたのでしょうか?

寒冷地に適した薬用植物を安定した収量と均一な品質を確保するために試験栽培研究を行なうためですね。輸入していた植物を国内で栽培する方法の研究や、
新品種の育成も行なっています。
この名寄盆地は一年の平均気温が5.5度、平均積雪113.2cmという道内屈指の寒冷豪雪地帯。冬は1.5mの積雪や、気温も−30度まで冷え込むこともあります。

短い夏でも育つシャクヤク、甘草、センキュウ、トリカブトなどの栽培研究が中心ですね。

薬用植物資源研究センターの本社は大阪にありますが、温暖な気候の植物の研究は種子島で、本州の気候が合う植物はつくばで栽培研究をしていますよ。

—なるほど。幅広い日本の気候に対応するためにそれぞれ必要なんですね。
北海道に適応した作物は、どういったものでしょうか?

例えば、ハトムギがあります。
元々熱帯の植物で、普通は寒いと実がならないのですが、「北のはと」という寒冷地向きの品種を作りました。

tabel 薬草 ハトムギ 畑
“北海道の気候に合うように作られたハトムギの品種、「北のはと」“

20年の栽培研究と検証を重ね、ついに2007年に品種登録されました。
現在は士別や函館などで栽培されています。

—1つの品種を作るのに、ものすごい時間と労力がかかるのですね。

品種を登録するためには、とても厳しい審査を通らなければなりません。
この、シャクヤクの一種である「ベニシズカ」は6年に渡る厚労省の審査を乗り越え、今年の6月に品種認定されました。
一般的なシャクヤクは生薬として使う場合は根を太らせたいので、ツボミができたら咲く前に切り落とします。
「ベニシズカ」は、もともと花が咲かないタイプに改良されています。

tabel シャクヤク 芍薬
“畑に定植された「ベニシズカ」”

—西洋のハーブも、たくさん植わっていますね。

はい。これはヨーロッパ原産のゲンチアナですね。
現地では昔から苦みのある胃薬として使われてきました。
大手製薬会社が、この根を使った化粧品も作っていますよ。
ピレネーやアルプスなどで見かけられますが、実は国産化はまだされていないので、国内で栽培できるように試験栽培をしています。

tabel 薬草 ゲンチアナ 畑 北海道
‘ゲンチアナ’

—輸入していた生薬を国内で栽培できるようになると、経済的にも量の確保からしても安定しますよね。

現在、主な輸入元である中国が経済発展したことで、良い漢方薬を中国国内でも使うようになりました。
日本が輸入したい高品質の生薬と需要が重なるので 、どんどん薬価が上がっています。

—何百年も前から活用してきた薬用植物の栽培方法が、日本ではあまり一般化していないように感じることがあります。それは何故でしょうか?

バブルの時代…1980年代頃に、中国でたくさん作ってもらって輸入しようと日本の技術士たちが渡航しました。それがかえって日本国内の技術が薄まることにつながり、現在、国内の栽培について研究ベースで調べ直しています。

tabel 薬草 ウラルカンゾウ 畑 北海道
“薬効成分が多くなるように栽培研究されている「ウラルカンゾウ」”

—1度失われた技術は、回復するのに長い年月がかかりますね。
畑で皆さんがお手入れ作業をされていますが、手間もかかりそうですね。

雑草抜きが一番大変です。
畑一反を一人で作業した場合、一年で140時間の手間がかかります。
そこからだいたい400kgほどの乾燥した生薬ができます。
厚生労働省が決めた薬価での取引となるので、国内の生産では労力と比べると稼ぐことが難しい状況です。
なるべく農家さんの負担が減るように、除草剤や農作業に特化した機械をメーカーと改良しながら開発しています。

—先生は、このお仕事にどんな魅力を感じていらっしゃいますか?

人の役に立つ仕事だ、という所ですね。
薬の原料を作るということは、周囲の人の助けになります。
さらに栽培研究の先には、農家さんが栽培するという具体的な次のステップがあるので、とても意義があるように感じます。

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—現在の課題は何でしょうか?

たくさんあります。笑
例えば、漢方薬をもっと多くの人…一般の方にも、医師の方にも知っていただきたいですね。
利用され、必要とされてこそ生産が成り立ちます。

現在、薬用植物は天然のものが大半ですので、豊作の年もあれば不作の年もあります。
野菜に比べると薬用植物の栽培方法は普及しておらず、手に入りにくい状況もあります。

そういった課題を一つ一つ解決し、薬用植物を安定して作り、安定して使える状況になるために、我々も日々努力しています。

—日本の医療を支える背景に、研究されているみなさんや、栽培されている農家さんの努力があるのですね。何気なくもらっていたお薬にも、たくさんのご縁が見えてくる様です。

たくさん貴重なお話を、どうもありがとうございました!!!

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国立研究開発法人 医薬基盤•健康•栄養研究所
薬用植物資源研究センター 北海道研究部
北海道名寄市字大橋108-4
http://wwwts9.nibiohn.go.jp/hokaidow.html

アイヌ民族が愛用して来た120種の有用植物が植わっているコーナーも、それぞれのアイヌ語名や効能の言い伝えを知ることができます。
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